書評

比較的長めの書評など。

「君の名は。」

君の名は。」というアニメーションを観た。知人から幾度も薦められたためだ。自分はアニメは見ない。嫌いなわけではない。ただ、特に最近は興味がわかないから見ない。

 

とはいえこの数日間、このアニメとともに、多くのはやりものの(アニメ)映画を10本以上、集中的に見た(同監督の作品、ジブリサマーウォーズシンゴジラ〈特撮〉などの諸作品)。

 

それもみな、「君の名は。」を薦められたことに端を発している。自分は基本的にはやりものは嫌いだ。そもそもはやりものから得られるものはなにもないと思う。大衆のレベルに合わせる低俗で下品なものかもしれないという疑念が強くある。ただ、観ないで評価するのも公平ではないから、時間を割いて観た。時間を割いて観たわけだから、何も残さないのはもったいない。とはいえ薦めてくれた人に感想をそのまま語るわけにもいかない。だからここに書く。

 

君の名は。」の監督は典型的なオタクだ。オタクという言葉でなければ、自意識の肥大化した、コミュニケーションの取れない、偏執狂と言ってよいと思う。典型的なセカイ系。「ほしのこえ」、「秒速5センチメートル」、初期作品からずっと同じだ。自分の言葉で悦に入っている。恥ずかしげもなくその言葉をばらまいている。少女、ロボット、超常現象。性、暴力、ナンセンス。端的に言えば、リアリティが欠如している。そして最悪なのが、死を弄んでいることだ。

 

アニメには皮膚がない。触感がない。そして悲しむべきことに、匂いがない。現実は汚濁に充ちている。現実を純化して非現実の世界を作るのはよいだろう。けれど、その非現実の世界が鑑賞者を現実に回帰させるのでなければ、その世界は「不健全」だ。結果どうなるかと言うと、美しい匂いのない世界、ノイズが入ってこない世界に逃げ込む人間を作ることになる。つまらない日常の中に非日常を求める勘違い人間を生み出すことに寄与するわけだ。具体的に言えば、自分は特別な人間だと感じること、狭隘な過去に気持ちの悪い意味を与えること。

 

この、つまらない、良くも悪くもない、本当に生きる価値があるのかもわからない現実を生きることが、俺たちの宿命だ。たまには逃避するのもいいだろう。ただ、俺は好きじゃない。

 

シンゴジラ」は多少ましな気がするが、多くは書かない。「リアリティ」が欠如していることは同じだと思う。

 

ジブリの作品はその意味ではよい。「ポニョ」の寓意はつまらなかったが、「風立ちぬ」は、この人生に向かわせる力があった。戦争を描いていながら、生死にかかわることについては現実に徹している。たしかに誇大妄想癖はあれだけの作画をする人間には必要なのだろうが、実際に汚濁にまみれた現実世界を生きている人間の作るものは違う。

 

「コクリコ坂」は話ありきで、うるさい語りかけが多すぎる。あと、はやりものではなかったが、「海がきこえる」も初見だった。これは「耳をすませば」よりもよいかもしれない。その点では、非日常を描いているが、「マーニー」もしっかりと日常を描いている。

 

サマーウォーズ」はステレオタイプの説教と娯楽でできているから、もう観ない。

 

時をかける少女」が残っているが、これについてはまた。

 

先にまとめをしておくと、ほとんど生きる力を奪う気持ちの悪いオタクのルサンチマンで、時間を無駄にした。